肉食文化のヨーロッパで豚肉を1頭まるごと使い尽くすのと同様、魚食文化の日本では魚をまるごと1匹、さまざまな調理法で使い尽くします。
「今ほど流通や冷蔵設備が発達していない頃、鮮度のよい時は刺身や昆布締めにし、日が経ってしまったら焼き物や煮物にするのがよいといわれていました。煮物や焼き物では、味噌や醤油、酒で調味するので、日にちが経っても魚をおいしく食べるには効果的なのです」と、京都の老舗割烹「たん熊 北店」の主人、栗栖正博氏。

焼き物ではもっともシンプルな「塩焼き」のほか、切り身を白味噌に漬けてから焼く「西京焼き」、柚子の果汁や醤油などを合わせた地に漬けてから焼く「幽庵焼き」などのバリエーションがあります。煮魚では、カレイのような淡白な魚は醤油とみりんを加えただしでさっと煮る一方、匂いの強いコイなどの魚は、甘辛い煮汁で甘露煮に。匂いが消えて、こってりとした煮汁が染みたおいしい料理に仕上がります。

魚の頭はゼラチン質の多い部位。煮物にして唇や眼の周りのトロリとした部分を楽しむ仕立てがポピュラーで、タイのあら炊きはその代表例。あら炊きの煮汁は冷ますとゼリー状に固まるので、魚の身とうま味たっぷりのゼリーを一緒に味わう「煮凝り」としても楽しむことができます。「タイは皮もサッと煮てから細切りにすれば、酢の物の具になります。中骨を焼いて、骨の周りに付いた身を好んで召し上がる方もおられます」と、栗栖氏。タイはとりわけ捨てる所のない魚です。

また魚の加工法まで広げてみれば、なじみ深いのが干物。丸干し、開き干し、生干し、一夜干し、調味干しなど、形状や干し加減によってさまざまです。笹漬けの名称で知られる小ダイの酢締め、ママカリの名で有名なサッパの酢漬けなど、保存と調味のための酢を使った加工も各地で行われてきました。すり身ではかまぼこ、はんぺん、さつまあげ、ちくわ、つみれ等々、各地に特色ある加工法が伝わっています。こんなにも日本人と魚の関係は近くて深いのです。